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コラム


▼ 誰にも聞けない夜のこと…人気ライターの連載コラム

[藤村綾]足りない、足りない……。

第19部 前編:たった20分の恋人 no.1

眩しい。
目を綴じていても瞼を通りこし、光が否応無しに目の中に差し込んでくる。
5月の優しい日差しが、あたしの全てを包み込む。

光に呑まれ溶けてしまいそうだ。
細く開いている窓からは、ぬるい風がそうっと入ってくる。
優しい温度。風は平等に遊女のあたしにも、降り注いでくれて、心もち、安堵感が裸の身体に巻きついてくる。

天井に目を向ける。蛍光灯がむき出しになった電灯はピンク色に光ってはいるけれど、やはり自然光に勝る威力はなくって、全く蛍光灯の役目は成し得てはいない。

夜になれば、きちんと役目を果たすのに。ぼんやりと、思考を巡らせる。
ピンク色の灯りはあたしを綺麗に妖艶に映し出してくれるのだから。
ぴちゃぴちゃと下半身から音が訊こえる。

『ええんか?なぁ、気持ちええんか?ユイ』

馴染み客の、自称会社経営の社長が、ジュルと唾を拭いながらいちいち、感想を訊ねてくる。

気持ちがいい行為なはずなのに、仕事にしているがゆえ、いつも怜悧なあたしが隣にいて、嘲笑する。

社長というわりに、ケチだ。20分しか上がらない。11000円。札束を見せびらかしながら、上客ぶる。傲慢な態度におかあさんも、辟易している。

1度300万を丸裸に持ってきて、あたしに手渡したことが。
あっ、え? くれるの? などと、まさかという思考がよぎったけれど、とんだピエロで、「どうだぁ、これで今からクルマを買いにいくんだよ。ワッハッハ。」。
鼻の穴をヒクヒクとひくつかせ自慢げに言い放った。その時も、11000円だった。

ケチってお金が貯まるというのはまんざら嘘ではないらしい。
白髪交じりのプーさんみたいな風貌をしている。会うたびにお腹が膨らんでゆく気がしてならない。針で刺したら、ぷしゅと音がなり、萎んでしまいそうだ。お金が腹に詰まっているのではないのだろうか。やることは普通のおとことなんら変わりない、遊女を見下した下世話なやつだ。

あたしは、自分の下半身に目だけで視線を向けながら、社長のつむじを見る。禿げてはいない。白髪だらけだけれど。

「あん、気持ちいわ。もっと、舐めてくれへんか?」

むしろ気持ちがわるいのに、気持ちがいい素振りをする。舐められたり、弄られたり、いれられたり。あたしは何も感じない。感じなくなってしまったとゆった方がいいのかも知れない。

身体を使い、お金に換金している。身体を使ったぶんだけ、お金を手にしたぶんだけ、あたしの理性は崩壊し、心がすり減ってゆく。

両脚をつかまれ、大股開きにされる。枕元にあるローションをあたしの秘部に塗りたぐり、自分のものをあたしの陰部に擦り付ける。

ああ、思わず声が出てしまう。頭の中はいたって冷静なのに、あそこは、律儀に気持ちがいいのだ。生理的に嫌悪している人なのに。

あたしは、そうっと目を綴じる。社長は、部屋が暗いことを拒む人で、白昼から来て、カーテンを開け、煌々と照りつける日差しの中であたしの全てを隈なく見やり、快楽の底へ果ててゆく。

【ピンポン】

5分前のチャイムが鳴る。

「どうや、なあ、なあ」

どうでもいいけれど、早く射精をして終わりたい。

「いい、もっと」

時間がないので欲情を煽る言葉を吐き捨てるも、社長は年配なので、なかなか簡単に射精にまで至らない。

【ピンポン】

2回目のチャイムでもう、降りて行かないといけない。社長が、うーん、と、唸りながら、自分のズボンに手を伸ばし、ポケットから札束をとり、一万を差し出して、「もう、20分追加して」と、一万円をあたしに手渡す。シワひとつないピン札。

頷き、一万円を持って部屋を出て行く。裸だけれど、構いはしない。階段を降り玄関先にいるおばちゃんに声をかけ、追加の旨を伝える。

「なんやぁ、裸でぇ、ええで。わかった。がんばりや」

おばちゃんは、くすりと笑みを見せ、ポケットにお金をしまう。
あたしは、また頷き、階段を登る。たった一万。されど一万。あたしは、また、淀んだ空気の、饐えた匂いの立ち込める部屋に吸い込まれていった。

また今から、約20分、お金で買われた遊女になる。20分が途轍も長く感じる時があるし、早く感じることもある。今回は前者。延長の20分はきつい。
あたしは、終わったあと、しばらく動けなかった

「あいかわらず、しゃちょうは、ユイちゃんが好きなんやなぁ。ケチなあの しゃちょうやでぇ。追加するなんて滅多ないわ」

おばちゃんが、やでぇ、の語尾をゆるゆるとのばしながら、目をしばたたかせ、階段を登るあたしの背中に声を投げた。

ふりかえり、あ、そうですね、やんなりますわ、部屋、片してきますわ、力なくいいながら、階段を登って行く。

使った部屋は自分で片す。前に使ったふうに見せないために、ゴミ(ティシュ)などは、トイレの脇のゴミ箱に捨て、布団の上に敷いてある、バスタオルは汚れないかぎり、きちんと整えておく。最後に消臭剤をまき、次の仕事部屋をつくっておく。

よし。あたしは、ローズの消臭剤をまき終えて、階段をおりた。玄関先にナミさんが、光を浴びて座っている。

ナミさんの前を、あ、すみません、と、小さくゆいながら、台所にいき、お客さんが飲んだお茶の入ったグラスを洗う。お茶の時もあれば、コーヒーや、コーラーの時もある。おしぼりも、バケツに放り込んで、一連の動作は終わり。

あたしは、待機場に戻り、お化粧直しをする。すっかり、お化粧も落ち、すっかり、疲弊をした顔。お化粧が厚い分、よれるのが顕著に目につく。上がるときは、バッチリお化粧。降りては、がっつりお化粧直し。徐々にお化粧が分厚くなり、最後は仮面が割れるのではないか、という具合までになる。

タイマーを入れる。10分。

交互に座る時間は明るい時間と暗い時間とでは異なり、昼間は10分。夜大体、7時以降は7分と決められている。瑣末な時間にご飯を食べたり、タバコを吸ったりと、せわしないのが、嫌いだ。

玄関先では、「なあ、なあ、おにいちゃん、かわいいねーちゃんいるでぇ」と、おばちゃんが声をかけている。

【チリン、チリン】

風鈴の音。寒くもなく、暑くもない5月。
あたしは、タイマーを気にしつつ、お化粧をなおす。

(きょうは、忙しいかな)

頬紅を塗りながらため息とともに、呟いた。

あたしは、遊女だ。遊女とは、遊郭に従事する女のこと。大阪の西成区・山王。ある種最近、観光地化されている飛田新地の料亭『とはる』に従事している。飛田新地は昔からある遊郭で、今も昔とさほど変わっていないそうだ。

あたしは、西成区の施設で生まれ育った。なので、自動的に自動的とは、誇張しすぎかもしれないけれど、きっと、いつかはここに座るんだろうな。と、ぼんやりと思いながら育ってきた。

母親も飛田で働いていたと聞いた。あたしが、聞いたのは18歳のときだ。父親は誰だかわからない。写真もない。未婚であたしを産んだのだ。もしかしたら、お客さんだったのかもしれない。

母親はあたしを施設にいれ、いつか迎えにきます。そう、一言だけのこし、姿を消した。2歳のあたしを置いて。

物じゃない。心のある人間を置いていったのだ。

ぼんやりと記憶はあるけれど、その記憶の中の母の顔をどれだけ探っても、全く思い出せない。いや、思い出したくもないのかもしれない。遊女の彼女を恨み、憎み、嫌悪し、絶対にその道は選ばないと決めていた。

けれど、違った。蛙の子は蛙。そのことわざ通り、あたしは、自ら遊女の道を選んだ。

16歳から一人暮らしをし、西成は、飛田はあたしの庭になっていた。
玄関先にいる綺麗なお姉さんを見るたび、母親に対する卑下した感覚は不思議と薄れていったのだ。座ることで母と同じ舞台にたち、母の見た光景を見たいのもあったし、その母から産まれてきた自分の身体を壊したかったのだ。母親に対する見えない抵抗だったのかもしれない。

飛田新地には、青春通り・メイン通り・妖怪通りという通りがあり、青春通りは20歳~24歳くらいがメイン。見た目が若ければ、ギリギリ、27歳くらいでも、いけるかと思うけれど、『え?なんでこんな可愛い子が座っているんや?』と、芸能人ばりに突飛な容貌の持ち主の女の子ばかりだ。

自分に自信がないと、座れない。
デリヘルや、ホテヘルみたいに、パネルや写真の修正は出来ない。生の姿を晒すのだから。

綺麗に見せる為に、顔にライトを浴びせるのが、唯一の足掻き。けれど、豊満な女性は写真のように細く修正が出来ない。なので、飛田は綺麗な子が多いのだ。

飛田に初めて従事した青春通りのお店は、本当に居心地もよく、挙句、その頃は景気も良かったので、上がりっぱなしだった。

あたしは、華奢で色白。小顔な上、清楚な黒髪。あっという間に売れっこ遊女になった。その頃、彼氏もいたけれど、お客さんがひっきりなしにつく日々に辟易し、彼氏から求められてもそれに応じるのが億劫になり、別れてしまった。

好きだった。と、思う。けれど、身体を売る仕事をするのに、男、すなわち、彼氏など皆無だと思った。身体を使って仕事をする。自分自身を売り、お金に換金する。その代償は人を愛することが出来なくなってしまうということだ。

結婚など出来ないかもしれない。そう、思慮したのは、26歳のときだ。同業の女の子も彼氏がいるコはまれだった。ホストに行っているコはいたけれど。若くて、かわいい。それだけで良かったあの頃。

今は、32歳になり、知り合いの料亭にうつり、昔からの名前、ユイとして遊女をしている。

妖怪通りという名前の通り。妖怪はやめてほしい。まあ、いいけれど。なにせ、飛田は馴染みさんが数人いれば、何歳でも、膨らませば、死ぬまで働けるのだ。

ちなみに、同じお店のおねえさんのななさんは47歳。馴染みさんがいるけれど、あたしは、どうして、こんな年増のおばさんにお客さんがつくの? 毎回、首を傾げてしまう。挙句、わきがだし。

料金は青春通りよりも少しだけ安く、時間も少しだけ長い。若いコもくるし、少しだけ奥ばったところに、お店があるので、すっと、入ってきやすく、青春通りのときよりも、お客さんがよくつくのに驚嘆した。あたしも青春からの馴染みさんがいるので、上がらない日はない。

「ユイちゃん、な、休んでもええで。週に1度は休まなあかんわ。えらない?」

おばちゃんが、光に照らされるあたしの方に目を向けながら、心配した口調でいう。おばちゃんとゆっても、まなみさんは、46歳だ。ななさんよりも年下なのがおかしい。まなみさんは無駄に綺麗で、おばちゃんがええ!などと、言われる始末だ。

「はぁ?なにゆーとる?あほか、ぼけ」語気を強め、お客さんをまくしたてる。

あたしは、それを見やり、目を細め笑いをこらえる。

「また、おばちゃん、からかわれましたね」
「なぁ、ユイちゃんな、参るわ、ほんま」

あまり、参ってもなく、まんざらでもない様子で、にいちゃん、どうやぁ、時間みるよ、声のトーンをいやらしくし、お客さんに声をかける。おばちゃんの仕事は声をかけて、お客さんを呼ぶのだけれど、出来高制なので、呼んで女の子にお客さんがつけば、それが、自分のお給料にプラスされるわけだ。

空が薄暗くなってきた。飛田は夜のネオンが似合っている。ひしめきあう、料理屋の看板に、店先の提灯。ピンク色・みどり色・蛍光灯の明かりを混ざり合わせ、女の子の顔を100倍くらいに綺麗に妖艶にうつし、お客さんはその明かりに群がってくる害虫に思える。

明かりに照らされ、笑顔をつくる。お客さんが通るたび、ニコリと笑みを向ける。

「ほんま、かわいいなぁ」

お客さんがよくいう台詞だ。かわいいから、綺麗だから座っているの。

あたしは、まだ、きっと、死ぬまで座る。笑顔を向ける。その裏の顔はすっかり、人間の心を見失った人形になっている。貯金が溜まるにつれ、人間の根底にある心をうしなってゆく。おばちゃんも、そう思っているのだろうか。病んでしまうとか、そういう類。

けれど、それは、とんだ杞憂で、あたしは、あたしの意思で、仕事をしている。何の目的ないまま。年月と、身体を通り過ぎる男の数だけが増えてゆくだけ。

「さ、どうぞ、ほな、行ったてな」

考えごとをしていたら、いつの間にか、お客さんが玄関先で頬を赤らめ立っていた。おばちゃんが、ユイちゃん、上がってな、いわれ、あたしは、お客さんを見やり、お願いします、と、挨拶をした。スーツ姿のサラリーマンだ。

「どうぞ」

お客さんを2階に誘導する。

「部屋はこちらです。ほな、何分にします」語尾上がりにいつもの常套句。
「20分でいいかな?」

お客さんは財布から11000円を取り出し、あたしに手渡す。

「おおきにな、ほな、下に行ってくるな」

ピンク色の照明の下。あたしの顔は100倍ほど綺麗に、妖艶に見える。
お客さんは、あたしの顔をじっと見つめ、

「わ、本当に綺麗やわ。ほんま、お人形さんみたいや」

大げさにいうも、嫌な気はしない。
あたしは、綺麗なのだから。あたりまえ。そんなこというなら、時間伸ばしてよ。腹の中で見えない唾を吐き捨てる。
部屋を出て、階段を降りる。

「おばちゃん、20分な」

11000円を手渡し、代わりに、お盆に乗った、お茶と、お菓子、おしぼりを持って2階にあがる。

「お願いします」

タバコをくゆらせるお客さんの目の前でするりと、キャミソールを脱いだ。

「ああ、」

お客さんは声には出さないけれど、あたしから目を逸らさない。
僥倖の眼差しを向ける。

お客さんは、立ち上がり、カチャカチャとベルトに手をかける。無機質な金属音。お客さんの左手薬指にはまっている、銀の輪っか。
異空間の中で始まる、非日常の行為は、せつなの恋人の時間。虚構の世界。

「洗浄にいってきますね」

あたしは、部屋を出て、トイレにある、簡易なシャワーで陰部だけを洗う。

「あちっ!」
お湯の温度を意図的に上げたのか、熱湯が出てきて、陰部が焼けそうになった。多分、ナナさんの仕業だ。

ひりつく陰部に麻酔クリームを塗り、何事もなかったかのよう、部屋に戻る。お客さんは一糸まとわぬ姿で寝そべっていた。机には、外しただろう、時計と、銀の指輪が、いまいましく、光っていた。
……後編に続く

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ライター紹介

藤村綾

藤村綾

風俗嬢.風俗ライター。風俗業界歴は15年のベテラン。『気持ちはいつも新人です(笑)。』という彼女の趣味は、昼間にファミレスにいる主婦の会話を盗み聞きすること。ミリオン出版『俺の旅』風俗珍講座、大人の女性のラブメディア『JESSIE』で連載中。愛知県在住。

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