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コラム


▼ 誰にも聞けない夜のこと…人気ライターの連載コラム

[藤村綾]足りない、足りない……。

第19部 後編:たった20分の恋人 no.2

「ほな、ありがとうな」

20分も経ってないのに、あっさりと、白い欲望を吐き出したお客さんは、すぐに、下着をつけ、身支度を始めた。

「あ、まだ、時間ありますよ」

あたかも気を使っているかのように、たどたどしく問う。お客さんは首を横にふり、

「実はな……」

そこまで言って、スラックスを履きながら、一呼吸置いて、続けた。
すっきりとした顔をしている。肌を重ねる前と、重ね終えた後では、どの男も顔つきが優しくそして、鷹揚になる。

「今、ほんま仕事中なんや。あんたが、あまりにも綺麗やから、つい、寄ってしもうたんや」

なにそれ?
あたしは、屈託なく笑い「仕事の時間は大丈夫なの?」と、覗き込むよう訊ねる。

「トラックに乗ってるんよ。荷物の集荷場がこの近くでな。なんとか、ギリギリ間に合う感じや。それよりも、あんたに会えたことの方が、俺的には、大満足や。ほんまに、ありがとうな」

真摯な表情で言われ、あたしは、ひっそり怯んだ。なにを思い、ありがとうなのだろうか。顔は確かに綺麗だとしても、心ここに在らず満載な感じで対応しているのに。お礼を言われることにあたしは、まったく慣れていなくて、胸がとてもざらつく。猫があたしの手を舐めたときの感触に似ている。

「あ、これどうぞ。舐めて帰りや」

お客さんが棒に刺さった飴を受け取る。ペコちゃんの飴。オレンジ味の。無造作に飴の包装を剥ぎ取り、口の中に入れ咥えた。

「ほな、ありがとうな」

扉をあけ、お客さんが先に階段を降りていく。
飴を頬張ったお客さんは、急いで靴を履き、お店から踵を返す。ことが終わり、お店から出て行くときが、一番嫌ったいのだろう。おばちゃんが、お客さんの背中に声をかける。

「にいちゃん、ありがとうなぁ」

やけに大きな声が、濃い夜に溶け込んでゆく。

飴を舐めるのは、もう、どこかの店で上がってきましたよぉ。のサイン。なので、飴を頬張っている男性には声はかけない。昔からそうなのだ。風習なのだろうか。

けれど、飴を舐めながらでも上がってくる人も時折いて、おばちゃんと目を合わし、ニヤリとアイコンタクトで笑うときもある。

土曜日は上がりっぱなしで、座る暇も、お茶を飲む暇もなく、ただ、ただ、機械的に業務をこなした。脱いでは、着て。着ては脱いで。

いちいち、律儀に落ち込んでみたり、洗浄に行く度に小さな窓から見える、飛田の夜景に目を落とし、嘆息を吐いてみたり、そうかと思えば、躍起になり嬌声をだしたり。

10人目のお客さんあたりで、下半身からなにか降りるものを感じ、指を突っ込んだら、真っ赤な鮮血が人差し指を濡らした。思考も崩壊寸前だったのに、身体も悲鳴をあげていた。

「やだぁ」

ひっそりと呟く。誰も訊いていないに。

洗浄を済ませ、10人目のお客さんを送り出した。玄関先にある時計に目を向けると、23時20分になっていた。座っている、ナミさんもかなり疲弊を滲ませた顔をしている。ナミさんもあたしと同じくらいお客さんについているはずだ。

ナミさんは30歳のシングルマザー。背中に観音様の刺青が彫ってあり、どこのお店でも断られたらしいけれど、うちの店のおかあさんは、行くあてのない、ナミさんを引き取ったのだ。まあ、容貌や所作を優先したのだろう。

「背中やさかい。脱いでしまえば大丈夫や。寝そべってしまえばな、ええやんか、なあ、ユイちゃん、なあ」

強く同意を求められ、あたしは、頷き薄く笑った。

顔がひどく綺麗でも刺青があるだけで、嫌煙されてしまう。顔が綺麗だから余計にかもしれない。任侠映画しかりだ。けれど、あたしが、男だったら、やっぱりひるむかもしれない。ナミさんもひどく美人で妖艶さを醸し出している。

「でもな、やっぱ最初は驚くねんな。でもな、寝てしまえば、身体に絵があろうが、なかろが、関係なくなるわ。所詮、絵なんかより、最後は、快楽やないか」

ナミさんが言っていたことが脳裏をかすめた。

「ユイちゃん、うち、もう、上がるから。お化粧なおしたら、タイマーせんでええからな座ってくれへん」

待機場にいたら、ニョキと小さな顔を覗きこむようにだし、ファンデーションを塗りたぐっているあたしに声をかけた。

「え?ナミさん、もう、上がりなん?」

まだ、30分もある。うまくいけば、もう一人くらいお客さんがつく可能性があるのに。

やや間があり、ナミさんが、欠伸を噛み殺しながら、もう、いいねん。疲れたわ。っくりした口調でいう。

「おかあさんにもゆうたんねんな。てか、ほんま、今日、11人連チャンでついたんやで、ほんま、もう、ええわ……」

最後の言葉を言い終わる前に、タイマーが、けたたましく音を上げた。タイマーをしないでいい、と、訊く前に癖でタイマーをかけたいたのだ。

「あ、じゃあ、ユイちゃん、たのむわ」

ナミさんが立ち上がり、階段を登る音がした。
部屋を片しに行ったのだろう。

「ユイちゃん~」

おばちゃんの呼ぶ声がする。あたしも欠伸をかみ殺し、玄関先に座った。
顔にあたるライトが異様に眩しくって、目がチカチカしていた。目を閉じても、ライトの輪郭が瞼の裏に染み付いてしまい、なかなかどいてくれない。あたしも相当疲れているなと、感じた。朝の9時から座っている。15時間労働になる。出血も気になっていたので、あたしも、正直なところ上がりたかった。

横に置いてある、ティシュを一枚とり、前を見ながら、わからないよう陰部を拭ってみた。

ホッと肩を撫で下ろす。何もついてはいなかった。多分擦れたのかもしれない。粘膜がもともと弱いあたしだ。麻酔クリームがないと、この仕事はできない。ピルも欠かさず飲んでいる。正直身体はボロボロだと、思う。

けれど、何を想いあたしは、頑張っているのだろう。わからない。この仕事以外、したことがない。社会に出たのは、16歳だったけれど、2年は愛人をやり、18歳からは、キャバクラで働き始めた。その2年後に飛田だ。女を売る仕事しかしたことがない。

一体身体を壊したらあたしはどうなるのだろう。社会を知らないあたし。女を売れなくなったらどうなるのだろう。年齢を重ねてゆくにつれ、徐々に現実に目を向けることが怖い。忘れた頃に狼狽するあたしがいる。

おばちゃんが、誰かと喋っていた。あたしは、顔から光を遮ってお客さんの方に目を向けた。

え?

お客さんと目があった。ニコリと白い歯を見せる。あたしも、ニコリと同じように真似をし、どうぞ、どうそ、と、手招きをした。

「今日は、もう、最後のお客さんや。時間少し多く見るわな。ありがとうな」

おばちゃんが男性の背中に声をかける。
あたしも立ち上がり、ありがとうございます、間延びの呼応をしつつ、階段を一緒に登った。

「ん? どっち?」

部屋を訊かれ、あ、こっちです。あたしの仕事部屋に誘導をした。

「はい」

早速お金を渡された。11,000円を受け取り「じゃあ、お待ちください」と、お金を握りしめ、階段を降りた。

「ユイちゃん、最後やで。たのむわな」

おばちゃんにお金を渡し、代わりに、お盆を受け取る。先刻のお客さんに持って行ったお菓子と同じだった。飴が入っていない。

階段を登りながら、どこか、緊張しているあたしがいた。なぜなら、お客さんが、ものすごく素敵な人だったからだ。素敵という単語に括られるのは、顔とか、スタイルとか、表面的なことなのだろうけれど、違うのだ。そのお客さんは雰囲気が素敵だったのだ。今までにないタイプだと思った。

「もう、終わりなのに、悪いなぁ、ほんま、すみません」
「あ、ええんですよ。大丈夫です」

お客さんは、洋服を脱ぎだした。あたしも、洗浄をしに、行くため、ちょっと待っていてくださいね、小声で言いながら、部屋を出た。

トイレの小窓から、あべのハルカスが見える。遠くから見るとさほど高くはないけれど、その実、目の前でみると、首が痛くなるほど、高い。

たまに雲がかかっている。見るだけで一度も入ったことはない。まあ、行く相手がいないと言った方が正解かもしれない。近いから余計に行かないのもある。

夜景が目に染みる。洗浄をする秘部も先刻の軽いやけどでしみていた。麻酔クリームを塗り、部屋に戻った。

お客さんは、裸になり、布団に仰臥していた。ぼんやりと、ピンクの明かりの灯った天井を見ている。

「あのぅ……」

声をかけ、お客さんの顔を覗き込んだ。

「始めてええですか?」

語尾を上げ囁くように問うた。

「……ええよ」

お客さんはいいながら、あたしを抱きしめた。

え?

そのまま、あたしをひょいと、寝かせ、立場が逆になる。お客さんの顔をじっと見る。好きな顔だと思った。中肉中背。背は180センチくらいあり、年齢は40代の後半といったところだろうか。

大きな手のひらで髪の毛を撫ぜられた。そのまま、顔が近づいてきて、キスをされた。髪の毛を撫ぜながらキスをされるなんてこと、この仕事についてから、一度もなかった。あたしは、驚嘆しつつも、心地よいキスに陶酔し、いつの間にか、お客さんの首に腕を回していた。無心に唇と唇を重ねた。

濃厚なキス。涎が垂れるのも構わずに、あたしは、キスという海に溺れた。キスをこんなにもたくさんしたことはなかった。あったかもしれないけれど、思い出せないほど昔のことかもしれないし、もしかしたら、初めてかもしれない。

唾の糸をひきながら、唇が離れた。そのまま、あたしの乳首に舌を差し出し、コロコロと転がされた。

あんっ

思わず、演技でもない隠避な声が出た。舌先が蛇のように、ちょろちょろと蠢き、くねるようにあたしも蛇になった。腰を浮かし、もっと、舐めてと、懇願しているような口調で嬌声を上げた。

脚を持たれ、足の指を指、一本、一本を舐められた。

「あ、ダメや、汚いで」

遊女のあたしをお客さんは、隈なく愛した。味わったことのない、甘い感情が渦を巻き、あたしは、流されないよう、がっちりとした背中に手を回した。

キスを何度も繰り返した。しても、しても、飽き足りず、あたしは、夢中になった。ひどく乱れた。仕事ということも忘れ、あたしは、とても大きな声で啼いた。お客さんも最後は小さな悦の声をあげ、あたしに抱きつき、果てていった。

しばらく重なったまま、互いの鼓動を確かめあうよう、抱き合った。お客さんの背中や、頭からは、大量に汗粒が吹き出ていた。

【ピンポン】

チャイムが鳴った。

え、もう?
離れたくなかった。あったばかりなのに。彼のことなどなにも知らないのに。

「わー、なんだか、がっつり抱いたわ」

お客さんが、汗を手で拭い肩で息をしながら、さらりと言葉を告げた。
あたしは、クスクスと笑った。

「あたしもや。がっつり抱かれたわ」

お客さんの目を見ながら同じ気持ちだということを伝えた。うまく言えないもどかしい気持ちにあたしは、焦燥感に駆られた。

始めての気持ちに戸惑う。なにせ、また逢いたいと、あたしの方が思ってしまったのだ。お客さんにこのような気持ちを抱くのは長年遊女をしていて初めてのことだった。

初めて女になった気がした。心のない人形ではない、普通の生身の女になった気がした。愛されるってこういうことなの?

「名前なんやったけ? また来るわ」
「あ、え、はい、ユイです」

名前を覚えていなかったことは、寂しかったけれど、また来るわと言われて素直にとても嬉しかった。嘘かもしれないけれど。他のお客さんにこの台詞を何度もゆわれるけれど、今回は心から嬉しかった。

「またっていつなの?」

訊きたかった。けれど、常套句だろうと、思慮し、喉のそこまで出かかっていた言葉を丸っと飲み込んだ。

たった20分。あたしは、どうやら、恋に落ちたらしい。
まさかの事態にあたしは疲れも忘れていた。

「はい」

名前も知らないお客さんの前に右手を差し出す。

「ん?」

怪訝な顔を向け、しばらく考えたあと、ああ、と、頷き、左手を差し出してくれた。握手をした。

「ほな、また」

あたしも、頷き、ほな、またな。目を細め同じ単語を繰り返した。
温かく大きな手。

「真似か?」

お客さんはあたしの髪の毛をくちゃとし、階段を降りていく。

「にいちゃん、ありがとうなぁ」

あたしも、手を振り、ありがとうと、小さく言った。

雨が降っていた。しとしとと。雨の匂いが濃い夜を薄めてゆく。飛田からは、明かりが一気に消え、ざわついた喧騒が嘘のようになくなり、一気に暗闇の世界になった。天国から地獄にきたみたいに0時を過ぎると、静寂に包まれる虚構の街。

あたしだけは、まだ、名前もしらない、もう、会うこともないかもしれない男の温もりに包まれていた。

雨がひどくなってきた。凌雨の中あたしは、傘をさし飛田の中に溶け込んでゆく。

ハルカスのネオンがぼやけて見える。

傘をそうっと下に降ろし、顔を擡げる。凌雨に打たれながら、ひっそりと涙を流した。

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ライター紹介

藤村綾

藤村綾

風俗嬢.風俗ライター。風俗業界歴は15年のベテラン。『気持ちはいつも新人です(笑)。』という彼女の趣味は、昼間にファミレスにいる主婦の会話を盗み聞きすること。ミリオン出版『俺の旅』風俗珍講座、大人の女性のラブメディア『JESSIE』で連載中。愛知県在住。

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