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コラム


▼ 誰にも聞けない夜のこと…人気ライターの連載コラム

[藤村綾]足りない、足りない……。

第20部 前編:あたしは風俗嬢 no.1

『あやちゃん、いつもの常連さん。田所ハイツ行ける?』

店長から電話があった。てゆうか、行ける? と、訊いてきた時点で、店長は『はい! 行けます!』と、言っている。なぜならあたしは待機中なのだ。けれど、んー、と、電話口で唸り声をあげた。

『行けなーいっ』

クスッと笑いを交えながら、空を見上げる。
7月の真っ青な空。絵の具のシアン色の空に手を伸ばしてみる。手の隙間から夏の光が溢れ落ちる。

『はあ? 今日出勤ってゆったでしょ?』

店長の困惑気味な声。

『なぁーんてね。はい、行きますよーぅ』
『もう! じゃあ、行ってね。夜の9時。時間厳守だよ。あやちゃんさ、いつも遅いからさ、お客から電話くるの。だからぁ……』
『あー、はい、はい、わかりました!』

店長の長くなりそうな話を途中で遮り、あたしは、時間厳守にて行きますー、と、生返事をして、通話を終えた。

とは言ったものの、正直な所、行きたくなかった。毎回、毎回、くどいけれど、毎回そうだ。

田所ハイツの106号室。
もう、何十回も行っている。常連さんという名の彼氏? 愛人? けれど、名前も知らない。普通は名前を名乗るのだけれど、自宅の場合、名前を名乗っても店長が女の子に言わないことがある。

今回も言わない、訊かないままで来てしまった。年齢もしらない。
臆測だけれど、50代の後半だと思う。顔はシミだらけだし、頭の毛も白髪が混じりだし頭部もさみしくなっている。バツイチだと思うけれど、もしかしたら、結婚を一度もしたことがないのかもしれない。

名前も知らない田所ハイツ106号室にまつわる情報は、ただ、仕事がトラックの運転手だということだけだ。どうしてトラックの運転手だとわかったかといえば、耳で訊いたわけではなく、【川島運送株式会社】と、会社名が記された給料袋が無造作に机の上にポンと置いてあったからだ。中身を内緒で確認したら、給料明細しか入っていなかった。まあ、あたりまえか。

あたしは、集団が苦手で、自宅待機にしている。
田所ハイツ106号はあたしのアパートから徒歩で5分の所にある。そのことは言っててはいない。

まさか、半径数十メートル圏内に住んでいるなどとは、思ってはいないだろうし、言う気などさらさらない。なので、歩いて田所ハイツまで行くのだけれど、あたかも、送迎されました! と、いう感じで、呼吸を整えてから、チャイムを鳴らすようにしている。

初めの何回かは、「ねぇ、電話番号か、メール教えてよ」と、執拗なほど訊かれた。「きちんとお金を払うからさ。直であえば、全部あやちゃんの分だよ」と、まで付け足され、あたしの返事を待った。

確かにうちは近いし、お店を通さなければ、店の取り分は無しになり、まるっと、あたしのものになる。

何度も、何度も、食い下がる田所ハイツ106号室は、全く首を縦に振らないあたしに、とうとう根負けしたのか、言わなくなった。お客さんに電話番語を教えるなどという行為は、なんの得にもならない。

お店を通さないのであれば、確かにお金にはなるかもしれない。けれど、そんなのは、最初のうちだけ。徐々に怠慢になり、時間もあってないような感じになり、挙句には、いいように扱われ、終いにはお金すらくれなくなる恐れもあるし、お客さんのほうが、割り切れず、彼氏面をするようになり、店を辞めてくれ、などと言いかねないし、ストーカーになる恐れもある。

お客さんとして出会った人はあくまでビジネス絡み。プライベートまで関与して欲しくない。

なので、あたしは、お客さんには絶対に自分にまつわる情報源を発したことは一度もない。ただの一度も。お客さんなど、飽きれは呼ばなくなるし、飽きなければ、何年でも呼び続ける。そこには、お金という壁があり、心という壁を通すことなどはない。お金という壁は心の壁よりも、100倍くらいは厚いのだから。

夜の9時半の予約だと、今は、午後の3時過ぎなので、運良くいけば、2、3人はお客さんにつくことができる。

先刻、買ってきた焼きそばにお湯を注ぐ。
立ち上る白い煙りの匂いが好きだ。むわんと、顔に湯気がかかるのを和み惜しみながらフタをしめた。

5分待って、カップの横を少しだけ開けて、湯切りをする。乾燥したキャベツ(か、なんだかよくわからないもの)がフタにつくので、それを箸でとりながら、ソースを混ぜる。インスタント食品の匂いがまた、たまらない。お腹の虫がグッとなり、混ぜるのも待ちきれず、ソースの塊の部分を箸ですくい、麺をすすった。

あたしは、せつな、後悔に襲われた。麺がかなり柔らかくなっていたからだ。
カップ焼きそばは少し、固めが美味しいんだよねー。
ふと、修司の言葉を思い出した。

一口だけ食べて、箸を置く。修司かぁ。小さく呟いた。

ソースの匂いが部屋中に充満している。背中とお腹がひっつくくらいにお腹が空いていたのに、柔らかい麺を啜ったら、一気に食べる気が失せ、箸がとまった。修司、その名前はあたしの中で忘れることの出来ない名前。

【ブーブ】

机の上でスマホが震えた。あたしは、焼きそばと並んで置いてある、スマホに手を伸ばし、通話ボタンを押した。

『はい』
『あ、今から、◯◯ホテル305。田中さん。お願いね!急いでね!』

要件だけのべて早口でまくしたてる。忙しいのだろうか。

『はい、直ぐ行きます』

フリーのお客さんだろう。指名じゃないみたいだ。あたしは、言うがさき、鍵を握りしめ、車に乗り込んだ。自走はこれだからいい。交通費も1,000円出るし。バックミラーを確認し、車を走らせる。

(グッウ)

お腹の音がした。そういえば、お腹が空いていたのだった。あたしは、途中コンビ二に寄って、サンドイッチと、アイスラテを買い、運転をしながら、サンドイッチをアイスラテで流し込んだ。

焼きそばがきちんとした固さだったら、食べたのに。コンビ二に寄らなくても、修司のことだって思いださなかったのに。後悔の念に押しつぶされながらも、あたしは、指定されたホテルに車を走らせた。

夕刻の5時。帰宅ラッシュにはまりながら、窓を細くあけ、タバコに火をつける。白い煙りは、細い糸となり、細く開いた窓の外に吸い込まれるように出てゆく。

ぼんやりと、細い煙りを見つめる。夕日があたしの顔に直面するも、目をそむけることは憚れる。じわりじわりと動いている、渋滞の波。あたしは、一体どこに向かっているのだろうか。風俗嬢のあたし。凡庸に過ぎてゆく日々の中、何を求め、何がしたいのか。自問するもの。わからない。

タバコを吐き出すも、同時に出るのは、嘆息だけ。ふいに、目頭が熱くなる。
誰かに抱かれたい。包んで欲しい。お客さんではない、誰か。愛する人。愛されたい。愛したい。骨が折れるほどきつく抱きしめて欲しい。

「修司……」

今日3度目の修司の名前を呟く。けれど、今から行くホテルに修司はいない。いるのは、顔も見たことのない赤の他人。心のないもの同士が抱き合い、お金を貰いその場を後にする。

愛ってなんだろう。あたしは、果たして修司に愛されていたのだろうか。すくなくとも、あたしは、愛していた。けれど、あなたは捨てた。あたしを捨てた。あたしの心と身体を。ゴミのように捨てた。ただ、愛して欲しかっただけなのに。

車がスムーズに動きだす。タバコをクシャと、灰皿でもみ消し、あたしは、アクセルをそうっと踏んだ。

ふと見たら、指さきに、焼きそばに付属でついている火薬の青のりがついていた。人差し指を口の中に入れ、青のりを舐めた。

指に唾が付着し、あたしは、ティシュで拭う。
せわしない運転をしているうちに、目的地にたどり着いた。駐車場に赤の文字で、『満』と出ている。

チッ。あたしは、舌打ちをし、少し離れた、コインパーキングまで車を移動させる。

「30分180円か」

呟く。誰もいない。ゆるゆると生温かい風があたしの両肩をするりと抜けてゆく。

……後編に続く

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ライター紹介

藤村綾

藤村綾

風俗嬢.風俗ライター。風俗業界歴は15年のベテラン。『気持ちはいつも新人です(笑)。』という彼女の趣味は、昼間にファミレスにいる主婦の会話を盗み聞きすること。ミリオン出版『俺の旅』風俗珍講座、大人の女性のラブメディア『JESSIE』で連載中。愛知県在住。

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