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コラム


▼ 誰にも聞けない夜のこと…人気ライターの連載コラム

[藤村綾]足りない、足りない……。

第20部 後編:あたしは風俗嬢 no.2

田中と名乗ったお客さんは、とても無愛想で、開口一番に言った台詞「60分で」と、「あ、イク」と、さよなら。の短文しか会話がなく、あたしは逆にとてつもなく疲弊した。

シャワーを浴びたのに、あたしの身体には指一本も触れず、ただ寝そべっている、田中(偽名)の欲望器官を舐め上げ、扱き、射精に導いただけだった。

男性は頭と身体がリンクしている。田中(偽名)は、射精をするとき、見ていたのだ。盛大な嬌声を上げ、喚きちらす、箱の中の女を。薄めをあけ、ジッと凝視していたのだ。

ただのオナニー道具。性処理に呼ばれただけ。性処理。その言葉が一番しっくりとくる。なんて高額な性処理なのだろう。お金を散財する以上、もう少しうまく立ち回りコミニュケーションを取ろうとは思わないのだろうか。なら、なぜ風俗嬢を呼ぶのだろうか。

このようなお客さんはたまにいる。めちゃくちゃに、ぞんざいに扱うお客さんもいれば、田中(偽名)のように、風俗嬢を見下した遊び方をするお客さんもいる。あたしは、前者の方がまだいい。ぞんざいに扱われた方がいい。風俗嬢らしくて、あたしらしい。

田中(偽名)は行為を終え、すぐにシャワーを浴びに行った。あたしを触ってもいないのに。汚いものを清めるように、丹念に身体を洗っていた。身体を触られるのも、触られないのも辛いなんて、滑稽な話だな。あたしは、自虐的に薄く笑った。

コインパーキングから車を出し、一旦事務所に顔を出した。お金を持ってゆくためだ。

「店長、いますか?」

言いながら、事務所兼、店長のうちの扉を開けた。店長がパソコンとにらめっこしながら、黒くてごつい椅子に腰掛けていた。

「あ、あやさん! 」

え? 脇の白いソファーの隅から、アニメ声がしたかと思ったら、ゆうなちゃんが、小さな身体を丸めながら、あたしを呼んだ。

「わー! ゆうなちゃん、久しぶりに見るぅ」

前回会ったのが、いつだったのかも、思い出せないくらい前だ。ゆうなちゃんは、相変わらず可愛かった。

「また、事務所にいるんだね……」

非難ではなく、思ったことを口にした。ゆうなちゃんは、首を横にふるふると2回左右に振りながら、頼りなさげに、言葉を継いだ。

「は、はい。どうしても、ダメなんです。他の女の子といると、パニックになるって言うか、いらいらするって言うか」

女子校だったのに、おかしいですよね。つくり笑顔の裏には、悲しい顔が伺えた。

ゆうなちゃんは、田舎から上京してきて、事務所から徒歩2分の寮に住んでいる。にも、関わらず、一人でいるのが怖くて、だいたい店長の側で待機をしている。なので、他の女の子からは良くは思われてはいない。店長のオキニだとでも、思っているのだろう。

ゆうなちゃんはそれでも、待機場に全く行かない。店長も了承済みだ。あたしも了承済み。ゆうなちゃんにあたしは、似ているところがある。以前店長に言われた。

「あやちゃん、久しぶりじゃん」

店長が振り返り、あたしと、ゆうなちゃんの顔を交互に見やりながら、あ、あまり久しぶりでもないか、と、言い直し、あたしの方に目を向けた。

なに? そのような、形相を向けたので、あ、精算をしに来ました。単調に言った

「えー、と、んー、どれだけ、溜まっていたっけか?」

店長はくるりと身体の向きを変え、パソコンを弄りだし、あたしの出勤表を確認し出す。

「あたしの計算が確かなら5万4,000円です」

んー、パソコンをカチカチとクリックする音が響きわたり、ふと、ゆうなちゃんの方に目を向けた。

かわいいな、素直にそう思った。あたしよりも3つ年下の30歳。まだ、幼さが残る顔立ちで、常連さんも多数いるらしい。ゆうなちゃんじゃあなければ、店長は側に置かないかもしれない。あ、あたしは咄嗟に口を両手で押さえた。ゆうなちゃんの手首に、数本の赤い傷跡があった。

リスカ……。あたしは、目を逸らし、体格の良い店長の背中に視線を移した。

「あー、そう、その金額だわ」

後ろにいるあたしに振り向くこともなく、パソコンを見ながら、頷いた。
あたしはカバンの中から、封筒にしまってあるお金をそのまま、店長の机にそうっと置いた。

「じゃあ、このまま、指名の田所ハイツに行ってきますね」

店長が振り返り、頼むよぉ、と言いながら肩をポンっと叩いた。

「あ、はい」

軽く返事をしながら、ゆうなちゃんのいるソファーにゆき、目を閉じているゆうなちゃんの頭をそうっと撫ぜた。ゆうなちゃんは、小さく寝息を立てている。

無垢な顔の裏に潜む黒い影。誰もが皆、影を背負い生きている。特に風俗に身を置いている女の子は影が濃いような気がする。気がするのではなく、濃いのだ。ゆうなちゃんの頭からは、シャボンの匂いがした。

玄関から踵を返すそのとき「あ、店長」と、思い出したかのように、わりと大きめな声で、店長を呼んだ。

「ん?」
「そういえばですね」

今更だけど、を付け足し、

「田所ハイツの人って名前ってなんですかね?」

ん? 店長もまた、今更かい! と、突っ込みながら、言ってなかったけか? 語尾上がりに怪訝な顔をあたしに向けた。

「白井だよ」

あ、ふーん。そうですか。白井さん。初めて訊いた名前だった。常連さんになってからもう、一年以上たっている。田所ハイツ106号の人から、今日やっとはれて、『白井さん』という呼称に昇格をした。

事務所を出たのが、20時を少し回ったところだったので、一旦うちに戻り、軽くシャワーを浴びた。昼間の焼きそばの匂いがまだ、残っていたので、ガラリと窓をあけ、空気の入れ替えをした。深くて濃い色の空にたくさんの宝石が散らばっている。乱視なので、星が無数に見える。なんだか得をした気がした。

バスタオルと、イソジンと、ローションを持って、今日初めて訊いた名前の白井さんのアパートに向かう。

歩いてもすぐ着いてしまうので、歩調を弱め、ゆっくりと歩く。月があたしの後からついてくる。遠くの方から風鈴の音がする。ムワンとしたアスファルトからは、昼間の喧騒の残滓が残っている。靴を脱いで裸足のまま、アスファルトに立ってみる。

「あつい」

足の裏から伝わる温度は確かに熱かった。けれど、あたしは、地面にある温度を身体で感じ、自分の足で立っている。

風俗嬢をしていることが、修司に知られてしまい、別れを告げられた。けれど、それは、ちょうどよかった言い訳で、修司はあたしと別れるタイミングを見計らっていたのだ。修司は既婚者だったから。

修司に固執していた。お客さんについた日は必ず連絡をし、修司に抱かれた。

そんな利己的な行動に嫌気がさしたのか、めんどうくさくなったのか、修司はあたしから去っていった。風俗嬢の自分を恨み、卑下し、憎んだ。

「風俗をやめるから、修司側にいて」

泣きながらすがった。けれど、それは一蹴され、呆れて顔で軽く言われた。

「風俗嬢だから別れるんじゃあないんだ」

じゃあ、なのんなの? 執拗に詰め寄ってみたけれど、風俗の仕事は結局やめずに、修司との別れを選んだ。所詮不倫だった。先のない恋愛だった。あげく、あたしは風俗嬢で、独身だ。修司からすれば、あたしと付き合うことのメリットよりも、デメリットの方が大きかった。奥さんにばれたときの代償。世間体。諸々だ。

愛していた。と、思う。
いや、一人になるのが怖かったのもある。

風俗嬢しかしたことのない、あたしは、風俗嬢として生きてゆくしかないのだ。年齢もあるけれど、きっと、死ぬまであたしは、風俗に従事すると自負する。

靴を履き、田所ハイツに到着した。部屋に灯りがついている。

【ピンポン】

ドタドタと、奥の部屋から足音が聞こえ、ドアがあいた。

「白井さん、こんばんは!」

あたしは、顔をもたげ、最大の笑みを向け、挨拶をした。

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ライター紹介

藤村綾

藤村綾

風俗嬢.風俗ライター。風俗業界歴は15年のベテラン。『気持ちはいつも新人です(笑)。』という彼女の趣味は、昼間にファミレスにいる主婦の会話を盗み聞きすること。ミリオン出版『俺の旅』風俗珍講座、大人の女性のラブメディア『JESSIE』で連載中。愛知県在住。

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